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広島地方裁判所 平成8年(ワ)805号 判決

主文

一  被告は原告に対し、金四〇九万五四二〇円及びこれに対する平成八年六月二七日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを一〇分し、その九を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り仮に執行することができる。

理由

一  請求原因1(一)の事実は、争いがない。

二1  同1(二)及び2の事実につき検討すると、《証拠略》によれば、以下の事実を認めることができる。

(一)  原告は、従前、旧システム(ビジネスソフト社製の販売管理システム)を使用していたが、原告の業務が拡大し、データの総量が増加し、平成五年三月ころ、システムの許容範囲の件数を超えてデータが漏れたため、同年一二月ころ、新しいシステムを備えることを計画した。

(二)  平成五年一二月下旬、原告の従業員であった甲野は被告に対し、パソコンと財務会計ソフトについて問い合わせ、見積の依頼をした。同六年一月二六日、被告担当者は原告を訪問して同月二五日付け見積書(合計一一三九万二四一八円)を交付し、原告のシステムに関する要求を聞いたところ、旧システム及び市販のパッケージソフトを使用して処理を行っていた財務、給与、販売の各管理と車両管理を原告の管理方法に基づき新たなシステムとして構築したいとのことであった。そこで、被告担当者は旧システムについて参考とするため、旧システムの仕様書第一冊を受領し、これに対し預り書を交付したほか、段ボール箱に入った契約書や伝票などの参考資料を受領した。

また、この頃、被告担当者に対して、甲野作成のコンピュータ仕様書も交付された。

被告が検討した結果、財務・給与管理はパッケージソフトウエア対応とし、販売・車両管理は原告の業務手続に対応するためオーダーメイドで作成することとなった。

(三)  同年二月三日、被告は同月二日付け「基幹業務システムご提案書」(以下「ご提案書」という。)を原告に提出した。その内容は、本件ソフトの目的として、顧客サービスの強化と営業活動支援資料の迅速な作成と分析、売掛請求の迅速な請求書の発行と請求及び記帳の合理化、経営管理資料の迅速な作成と分析などを掲げ、システムの構造として売上(売掛金・売上)、回収(預金・売掛金)が全て会計に直結され、顧客・売上・入金情報から元帳・管理帳票作成に至るまで「販売管理」と「経営管理」が一体的にできるというものであり、「作業分担」では、原告が現状調査・分析のうち現状の業務の流れの調査と例外事項と絶対事項の明確化を行い、被告がヒヤリング及び調査結果のとりまとめとシステム提案書の作成を行うこと、基本設計書・詳細設計書・プログラムの作成は被告が行い、これを原告が確認することになっている。そして、「システム開発スケジュール」では、同月一日までに原告の責任で現状調査することとなっており、システム概要設計は原告の責任で被告が同年三月一日までに行い、ハードウェアの設置とソフトウェアの開発は被告が三月一日から行うこととなっていた。

原告代表者は「ご提案書」に同意し、甲野及び被告担当者の丁原、戊田、丙川が参加して「ご提案書」をもとに打ち合わせを行った。この時、丙川は得意先元帳を加えることを提案し、原告代表者は、原告から提出される請求書等や、甲野の指示・要求事項に従ってシステムを作成すること、被告からも指摘事項があれば提案するように述べた。

(四)  その後、甲野から「コンピュータ仕様書」の追加分が渡され、被告から同月一五日付けの見積書(見積合計金額一二六六万九〇〇〇円)が原告に交付され、これに応じて原告は発注した。見積書では、ソフトウェアにつき販売管理のアプリケーションは六四〇万円、車両管理五〇万円、マスタ管理七三万円、財務ソフト改良(帳票)五六万円、給与ソフト改良(帳票)三六万円と見積もられているが、パッケージの他には見積はされていない。

(五)  同月下旬から承認仕様書作成のため、被告はヒアリングを行い、同年三月二八日付け「基幹業務システム・承認仕様書」が被告から原告に交付された。

(六)  同年四月一四日、被告担当者は、原告代表者と甲野に対し、販売管理システムのプロトタイプ(試作モデル)を用いて顧客マスタ入力画面の操作面の説明、要望の確認をした。その際、原告代表者より複数のパソコンで業務を行える仕組みにするよう要求されたので、同月二七日、PC―LAN構成の見積書(見積合計金額一二七九万二六〇〇円)を提出し、同月二八日、原告は注文書を交付した。

(七)  同年五月二〇日、販売管理システムの詳細仕様の打ち合わせが開始され、被告担当者甲田が業務を合理化するため作業伝票を自動発行する機能、得意先元帳、出力帳票に明細データを印字する機能を提案したのに対し、甲野は、作業伝票を自動発行する機能については了解したが、その他は作成の必要はないと回答した。その後、被告担当者丙川からも売上月報管理資料の作成機能及び得意先元帳を提案したが、甲野は、従来から手書きで管理簿を作成しているのでその必要はないと回答した。

(八)  同月二七日、被告担当者甲田及び甲野が販売管理システムのプロトタイプを用いて画面や帳票の詳細な確認を行った。

(九)  同年六月三日、被告担当者甲田、丙川と原告代表者及び甲野は売上計上等の業務処理に関する打ち合わせを行った。同月二一日、コンピュータ機器一台が搬入され、被告担当者甲田及び原告代表者、甲野は請求先、顧客マスタ、作業種別の確認を行った。同月二七日、被告担当者乙野、甲田と原告代表者、甲野は消費税の計算及び処理に関する打ち合わせを行った。同年七月一四日、被告担当者甲田と甲野は画面・帳票仕様等の最終的な確認のための打ち合わせを行った。

(一〇)  同月二九日、同月二八日付け「基幹業務仕様書」及び「販売管理基本設計書」並びに「車両管理基本設計書」が被告から原告に提出され、基幹業務システム設計が完了したことについて原告の承認を得る内容の「開発進捗確認書」が取り交わされた。

この「基幹業務仕様書」には作業分担が明記され、現状調査・分析は原告が行い、被告は原告が調査分析した結果に基づき販売管理システムの詳細設計をとりまとめることになっていた。

被告は、販売管理システムにつき、各プログラムの作成、結合テスト、システムテストを行い、また基幹業務システム運用説明書、販売・車両管理システム操作説明書を作成した。テスト段階で、被告は再度得意先元帳を追加することを提案したが、甲野はその必要はないと回答した。

(一一)  同年九月五日、被告は、コンピュータ機器の納品及びプログラム類のインストール作業を行い、翌日から原告従業員への操作教育を開始した。

(一二)  原告会社において、被告担当者甲田立会の下、甲野がマスタデータ登録、各種伝票入力、作業伝票発行、請求書発行、管理帳票印刷等を実際に操作して、受入検査を行った。この際、画面や帳票の表示方法の変更要求があり、変更作業を実施した。また、各種マスタデータの登録作業は、被告が行った。

原告は、東芝リースに対し、「リース物件引渡完了書」を提出し、同月三〇日付けで原告と東芝リースとの間で本件リース契約を締結した。

2  前記1(一)ないし(四)の認定事実によれば、原告と被告は、東芝リースとの本件リース契約が締結される以前に、原告からは「コンピュータ仕様書」を、被告からは「ご提案書」や見積書を数回交付して本件ソフトの内容や報酬を定め、平成六年二月一五日に発注して本件契約を締結し、それに基づいて被告は本件ソフトを製作したものであると認められ、さらに、前記1(六)で認定のとおり、本件システム一式をLAN対応とし、それに応じて本件契約を一部変更する合意をなしたことが認められる。

以上のとおり、原告と被告は、本件ソフトの製作について、数次の交渉を経て、その内容を確定し、それに従って本件契約を締結したというべきであり、原告と東芝リース間の本件リース契約は、ファイナンスリース契約であって、金融を得る手段にすぎない。したがって、被告は、原告に対し本件契約に基づき、本件ソフトを製作する義務を負うというべきである。

なお、《証拠略》によれば、売主・被告、買主・東芝リース、借主・原告とする東芝リースの被告に対する注文書には、契約条件として、「(第二条)売主は物件の規格、仕様、性能、納入条件等をすべて借主の使用目的に合致させることを借主及び買主に保証します。」、「(第五条)物件に関する暇疵担保(中略)等の義務の履行については、売主が借主(但し、「貸主」と誤記。)に対し直接その責任を負います。」、「(第六条)物件の規格、仕様、性能、機能等に、不適合、不完全その他の瑕疵があり、(中略)売主は、借主または買主の選択に従い、この契約の全部もしくは一部の解除、補修、代品との交換または損害賠償の請求に応じます。」との記載があり、他方、本件リース契約には、東芝リースは原告に対しリース物件の瑕疵について何ら責任を負わない旨の約定があることが認められ、これらの契約内容によっても、原告と被告間に直接の製作契約が成立していることが裏付けられるものといえる。

三  同3の事実(債務不履行)について

1  前記認定の「ご提案書」の内容や、「基幹業務仕様書」、「販売管理基本設計書」及び「車両管理基本設計書」の各記載内容を前提に本件契約の内容を以下検討する。

2  「ご提案書」及び「基幹業務仕様書」では、現状の業務の調査を原告が担当することとなっており、見積書にシステム分析設計費用や業務分析費用が組込まれていないことから、本件契約は、発注者である原告側でシステムに関する要求事項をとりまとめ、受注者である被告がこれをサポートする方法で、コンピュータシステムを利用する範囲、内容を確定することとしたものと認められる。

したがって、本件契約上、原告は、要求内容を明確にして打ち合わせをしなければならない義務を負うが、前記二1の認定事実のとおり、原告の担当者である甲野が原告代表者の指示に基づき、本件ソフトの製作過程で原告の要求事項の取りまとめ等に関し主導的役割を果たしていたのであるから、甲野が被告に対し指示し、要求した事項や被告の提案に対し応答した内容によって、被告が本件ソフトの製作に当たってシステム化すべき範囲、内容が具体的に確定されることになる。

同時に、前記二1(二)、(三)の認定事実によれば、被告は「ご提案書」において本件システムの目的として販売管理、経営管理の迅速化、合理化を図ることを提示していたのであるから、コンピュータソフトの製作に関し自らが有する高度の専門的知識経験に基づき右目的の実現に努めるべき責務を負うと解するのが相当である。しかるところ、被告は、甲野作成の「コンピュータ仕様書」の他に、旧システムの仕様書等及び契約書や伝票などの参考資料を受領していたのであるから、原告の調査結果や右各資料に基づいて原告の業務の内容を分析した上、専門技術的な視点で判断して必要と思われる事項を提案、指摘するなどして原告をサポートする義務があったというべきである。

3  被告は、「コンピュータ仕様書」が原告の要求事項をとりまとめた仕様書であると主張するのでこれを検討する。

《証拠略》によれば、原告が従来使用していた旧システムの仕様書のうち顧客管理台帳がゴミ、下水、浄化槽の三部門に分かれていたのに対し、「コンピュータ仕様書」では、廃棄物、下水、浄化槽、建物、貯水槽の五部門に分かれて顧客管理する仕様であり、その点は顧客増加に伴う新たなシステムの要求内容であるといえるが、具体的には「コンピュータ仕様書」のほとんどは方眼紙を用いたマスタデータの入力画面の書式であり、その他は旧システムの仕様書の帳票レイアウト・画面レイアウトを変更し、又は部分的に項目を加除し、入力文字規格や入力内容の説明を加えたものであること、「基幹業務仕様書」の詳細設計には、原告の作業項目として「マスタデータ入力用紙作成」とあること、「コンピュータ仕様書」は一括して交付されたものではなく、数回に分けて交付され、詳細仕様の打ち合わせが始まった後である平成六年六月六日にもファックスで送付される等、何度も差し替えられていたことが認められる。

また、車両管理システムについて甲野が作成した「コンピュータ仕様書」についても、そのほとんどはマスタデータの入力画面の書式や入力文字規格である。

よって、これらの「コンピュータ仕様書」は原告の業務の現状を分析して要求事項をとりまとめた仕様書であるとは到底いえず、これが被告において本件ソフトによりシステム化すべき範囲、内容を明示したものとは認め難く、被告としては、専門技術的な視点でこれらの資料を検討し、原告に必要な事項を提案、指摘するなどして原告と打ち合わせた上で、基本設計書・詳細設計書・プログラムの作成に当たらなければならなかったものと解するのが相当である。

4  そこで、右の見地に立って、原告が本件ソフトの欠陥として主張する各項目につき以下検討する。

(一)  販売管理システムについて

(1) 顧客先と請求先の関連を容易に把握確認し、また変更するための画面がディスプレー上に用意されていないことについて

《証拠略》によれば、原告の業務上、作業する顧客先と請求先が異なる場合があるが、本件ソフトは、請求する際に必要な締日や自動引落の銀行支店名等が作業種別の顧客明細マスタに登録され、各作業部門が独立して分かれているため、顧客別すなわち五部門の作業種別単位に、月々の売掛金残高、売上、入金等の営業状況を把握し、それを手作業で集計していることが認められる。

一方、甲野作成の「コンピュータ仕様書」が五部門の作業種別単位に作成されていることから、打ち合わせ当時、入力作業を顧客別にすることを重視し、本件システムで十分機能すると理解していたものと想定されるが、請求する時点では、請求先毎に作業明細を把握することが必要であり、甲野の構築したシステムには請求顧客明細マスタ・顧客基本マスタ・顧客明細マスタの関連付けに会計学上の問題点があるのであるから、被告としては専門技術的な視点でこの問題点を指摘し、経営管理を一体的に行うことができるようサポートする義務があったものと解されるが、これを怠って関連付けを行わずそのまま作成したことは債務不履行に該当するというべきである。

(2) 臨時作業用入力伝票が作られていないことについて

右機能が原告と被告間で合意された本件ソフトの仕様の範囲に含まれていることは本件証拠上認められないし、被告が自ら提案、指摘すべき事項であったことを肯認しうる事情も認められない。

よって、本件ソフトが右機能を具備しないことが被告の債務不履行に当たるとは認められない。

(3) 作業予定の完了・未完了を一括して管理できないことについて

右機能が原告と被告間で合意された本件ソフトの仕様の範囲に含まれていることは本件証拠上認められないし、被告が自ら提案、指摘すべき事項であったことを肯認しうる事情も認められない。

よって、本件ソフトが右機能を具備しないことが被告の債務不履行に当たるとは認められない。

(4) 財務管理システムへのデータの受渡しができないことについて

販売管理システムから財務管理システムへの売上データの受渡しは、日計を現金と売掛別に合計したデータでの受渡しにとどまり明細で受渡す仕様になっていないことは被告も自認しているところ、《証拠略》によれば、「販売管理基本設計書」中の出力仕様書には、データの引渡しは売上及び入金(回収)とも仕訳データで引渡すと記載され、さらに、これに添付された仕訳データのテキストファイルの「ファイルフォーマット定義シート」は、売上及び入金ともに伝票区分、伝票日付、伝票番号等で作業明細を記載する仕様となっており、このことから各データは明細で引渡す仕様にすることが合意されていたと想定されること、しかし明細での受渡しができないため、原告は販売管理システムと財務管理システムとで二重に入力することを余儀なくされていることが認められる。

よって、売上データについて合計値で引渡すのみでは右仕様に適合しない点で債務不履行であるというべきである。

この点に関し、乙一九(システム打合わせ議事録)には、平成六年三月二六日に、被告担当者と甲野との間で「売上、売掛のサマリー値を取り込む」ことが了解された事実経過を示す記載があり、また《証拠略》には同旨の証言部分ないし陳述記載があるが、《証拠略》によれば、実際の打ち合わせの日は同月二八日であって、右議事録の日付に誤りがあるというのであるし、右議事録には承認印がないこと、また、右議事録には、LANの構想に関する記載が存するが、前記二1(六)で認定のとおり、原告代表者からLANの構想が出てきたのは同年四月以降であることなどに照らし、右議事録の記載や証言等は信用できない。

(5) 官公庁提出の書類の作成ができないことについて

《証拠略》によれば、官公庁提出の書類が被告に交付されていたことが推認できるが、右機能が原告と被告間で合意された本件ソフトの仕様の範囲に含まれていることは本件証拠上認められないし、被告が自ら提案、指摘すべき事項であったことを肯認しうる事情も認められない。

よって、本件ソフトが右機能を具備しないことが被告の債務不履行に当たるとは認められない。

(6) 作業処理入力処理において、作業コードを一旦入力すると、変更がきかないことについて

《証拠略》によれば、本件ソフトでは、最初に作業コードを入力する仕組みであるが、作業コードを一旦入力するとカーソルが後ろへ戻らず、データを修正しようとしても打ち込めないこと、そして、作業コードが平成七年四月一四日当時で九〇五件で、統一性がなく設定されているので、コード入力の作業に困難を伴うことが認められる。

右認定の本件ソフトの操作性の不備は、被告の設計が適正を欠いたことに起因すると認められ、被告は原告が作業コードを円滑に入力できるよう設計する義務があったのにこれを怠ったといわねばならず、債務不履行に該当するといえる。

(7) 作業中、間違ったデータを入力したとき、入力データは受け付けられない場合があるが、その際に原因を示すメッセージ等の反応がないことについて

《証拠略》によれば、本件ソフトは、伝票入力作業等の際、登録されていないデータやコードを誤って入力した場合には、その時点で入力を受け付けず、直ちに「入力エラー」の基本メッセージを表示する仕様となっているが、そのエラーの原因を示すメッセージまでは表示されず、データが受け付けられない状態となることが認められ、このような状況では、営業活動支援資料が迅速に作成できないものと認められる。

右認定の本件ソフトの仕様の不備は、コンピュータソフトとして通常有すべき機能を欠くものと評価するのが相当であり、被告の債務不履行に当たるといわねばならない。

(8) 作業伝票入力処理において、ディスプレー画面には顧客コード・名称しか表示されず、請求先を確認して入力することができないため、入力ミスが起こりやすいことについて

右入力作業において請求先を確認しうる機能が原告と被告間で合意された本件ソフトの仕様の範囲に含まれていることは本件証拠上認められないし、被告が自ら提案、指摘すべき事項であったことを肯認しうる事情も認められない。

よって、本件ソフトが右機能を具備しないことが被告の債務不履行に当たるとは認められない。

(9) 伝票が契約期間が経過していても発行されるなど契約解約や契約期間満了のデータが活用されていない場合があることについて

《証拠略》によれば、甲野が、契約期間満了や契約解約のデータはフリー月顧客の場合を除き、メモとして表示のみ残すよう指示したことから、フリー月請求顧客保守画面でのみチェックでき、伝票発行等ではチェックしない仕様とされたことが認められるから、この機能が契約内容に含まれるとは認められず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

(10) 伝票区分(伝票発行する/しない)・請求区分(請求書発行する/しない)のデータが処理されず、「発行しない」を設定しても関係なく発行されることについて

《証拠略》によれば、甲野が、顧客明細マスタの伝票区分・請求区分のデータはメモとしてマスタ入力できるように、「しない」と設定しても実際の伝票、請求書発行には関係なく発行するように作成することを指示したことから、どの処理にも反映しない仕様とされたことが認められるから、この機能が契約内容に含まれるとは認められず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

(11) 請求明細書が、請求コードでは照会できず、顧客コードでしか照会できないことについて

右機能が原告と被告間で合意された本件ソフトの仕様の範囲に含まれていることは本件証拠上認められないし、被告が自ら提案、指摘すべき事項であったことを肯認しうる事情も認められない。

よって、本件ソフトが右機能を具備しないことが被告の債務不履行に当たるとは認められない。

(12) 消費税の方式が変更できないことについて

《証拠略》によれば、請求マスタごとに外税・内税の設定はできるが、一旦登録すると変更できない仕様となっている事実が認められ、一般に課税方法や税率は変化することが予想され、これに対応できることは販売管理ソフトとして通常有すべき機能であると考えられるから、右機能の不備は被告の債務不履行に当たると認められる。

(13) 廃棄物や下水等五部門別の集計はできるが、部門をトータルした会社集計ができないことについて

前記(1)のとおり、本件ソフトには会計学上の問題点があり、請求先毎に請求額を把握し、廃棄物や下水等の五部門をトータルで集計する機能を具備させるべきであったといえる。

しかし、前記二1(七)、(二)の認定事実によれば、本件ソフトには一般的に必要とされる得意先元帳や売上月報等の作成機能が含まれていなかったので、被告から作成するよう何度か提案したところ、その都度甲野から不要であると回答があったため、作成しないこととなったのであるから、原告が右機能を本件システムに加えるよう要求していたとは認められず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

よって、本件ソフトが右機能を具備しないことが被告の債務不履行に当たるとは認められない。

(14) 廃棄物収集順路番号どおりの変更ができないことについて

右機能が原告と被告間で合意された本件ソフトの仕様の範囲に含まれていることは本件証拠上認められないし、被告が自ら提案、指摘すべき事項であったことを肯認しうる事情も認められない。

よって、本件ソフトが右機能を具備しないことが被告の債務不履行に当たるとは認められない。

(15) フリー月顧客保守で、フリー月以外の取引がフリー月と混在して表示されることについて

《証拠略》によれば、被告担当者は、原告よりフリー月顧客であれば、フリー月以外の取引、つまり臨時作業や、毎月の作業は発生しないとの説明を受け、フリー月顧客はフリー月請求顧客保守で請求日、請求金額の設定を行い、固定客や臨時客とは区別する仕様としたことが認められるから、フリー月顧客保守で右のような混在した表示がなされるとしても、被告の設計に不備があるとはいえず、債務不履行には当たらない。

(16) 浄化槽点検記録表が作成されていないことについて

右機能が原告と被告間で合意された本件ソフトの仕様の範囲に含まれていることは本件証拠上認められないし、被告が自ら提案、指摘すべき事項であったことを肯認しうる事情も認められない。

よって、本件ソフトが右機能を具備しないことが被告の債務不履行に当たるとは認められない。

(二)  財務管理システムについて

(1) 期末処理の時間が異常に長いことについて

《証拠略》によれば、本件ソフトの月次更新処理には、平成八年一一月当時で三〇時間以上かかっており、平成一〇年一二月当時では、約八四時間かかり、コンピュータが月次処理のみに使われ、新たな販売管理データの入力ができず、月末、月初の販売管理情報が把握できないこと、「基幹業務仕様書」では、システムの処理能力としてデータ件数の項目で、作業日報が月に一〇〇〇枚として五年間分対応することが予定されていることが認められる。

この点に関し、証人甲野は、当初の設計では売上入金データを当月分だけ保守することにしていたが、原告からの変更の要望により五年分残すことになったため、月次処理に時間がかかるようになった旨証言しているが、《証拠略》によれば本件ソフトの設計上売上等のデータは当初から五年分保持することとしていたことが認められるから、これに反する右証言は信用できない。

そして、右認定の本件ソフトの処理能力の低劣さは、財務管理システムとしての機能を著しく欠くものといわねばならず、被告の債務不履行に当たると認められる。

(2) LAN機能が著しく劣っていることについて

《証拠略》によれば、本件システムは、四台のコンピュータが、クライアントサーバシステムのLANを構成しているところ、甲野と被告は同時入力してはいけないものを取り決め、入金及び売上については、それぞれの項目が二重に入力されるのを防ぎ、また、過去に遡って修正できないようにするため売上及び入金は同じ日付の作業しか入力できない仕様とすることとしたこと、しかし、本件システムは右制約にとどまらず、同じ日付の入金と売上の入力作業まで同時にできなくなり、担当者が分担して入力作業を行うことができず、それぞれのコンピュータが異なる給与ソフト、販売管理ソフト、財務管理ソフトに関する入力作業を同時に行えるにすぎない状況にあること、本件システムの四台のコンピュータのうち、二台にプリンターが接続されているが、プリンターにはLANに組込まれておらず、単に接続されたマシンでのみ使えるにすぎないこと、本件ソフトはデータのやりとりをフロッピーディスクによって行うシステムになっていることが認められる。

よって、LANの機能に被告が甲野と取り決めた以上の制約が加わっており、これは被告の設計上の不備によるものと認められ、前記二1(六)で認定のとおり、原告代表者が要求した、複数のパソコンで作業ができるとの機能を欠くものといわざるを得ず、被告の債務不履行に当たると認められる。

(3) 得意先元帳の不存在・得意先別集計・一覧機能の欠如について

前記二1(七)、(一〇)の認定事実のとおり、被告は、得意先元帳や売上月報等の作成機能を付加することを何度か提案したところ、その都度甲野から不要であると回答があったため、作成しないこととなったのであり、原告が右機能を本件システムに加えるよう要求していたとは認められず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

(4) コード表の不備について

前記(一)(6)の認定説示及び《証拠略》によれば、作業コードを一旦入力するとカーソルが後ろへ戻らず、データを修正しようとしても打ち込めないこと、作業コードが平成七年四月一四日当時で九〇五件に達し、統一性がなく設定され、コード検索画面も一度に六件しか表示しないので目的のコードを見付けるまでに五〇回程度画面を切り替えなければならないことになり実用的でないので、コード入力が困難であることが認められる。なお、《証拠略》によれば、甲野が作業コードを設計していることが認められるが、被告としては専門技術的見地から統一性・拡張性を備えたシステムになるようサポートする義務があり、甲野の設計を漫然使用したことは右義務を怠ったものといわねばならない。

よって、被告は原告が作業コードを円滑に入力できるよう設計する義務があったのにこれを怠ったといえ、債務不履行になるといえる。

(5) 口座振替一覧表の不備について

《証拠略》によれば、本件ソフトは、「基幹業務仕様書」及び「販売管理基本設計書」において、請求処理の一環として、請求先が自動振替で入金の場合、「口座振替一覧表」を表示する仕様となっていること、通常、請求処理の段階で口座振替一覧表を見る場合は、取引銀行が振替できる内容を表示するが、本件ソフトにおいては、相手方口座の名義人、口座番号、銀行支店名等を表示するだけで、振替金額、振替日等の情報が含まれないので、本件ソフトが作成する口座振替一覧表によっては取引銀行に対し口座振替を依頼することができないことが認められる。なお、《証拠略》によれば、甲野が口座振替一覧表を設計していることが認められるが、被告としてはこれが銀行に提示して振替を行うことができるかどうかを検討し、適正なものを作成するようサポートする義務があり、これを怠ったといえる。

よって、右の点は被告の債務不履行に当たると認められる。

なお、《証拠略》によれば、平成七年一二月に被告から口座引落依頼書が納入されていることが認められる。

(6) 計算結果の誤りについて

《証拠略》及び前示(一)(1)の認定説示によれば、手書元帳の集計結果と本件ソフトの請求明細一覧表を照合すると、大幅な誤差があり、特に、月末・月初の繰越金額は、平成七年九月当時では八〇〇万円、同一〇年一二月当時では一五〇〇万円以上の誤算があり、誤差は年々増大していること、本件ソフトは作業種別毎にそれぞれの顧客別に月々の売掛金残高や、売上などを管理する仕様となっており、売掛残高一覧表は部門別であって、作業日報と突合できず、科目残高に繰越データ(売上高)を個別に登録することとなり、それぞれの部門別の作業明細マスタを事前に登録し、過去データの修正や削除ができない仕様となっていることが認められる。

右認定の仕様の不備は、売掛請求の迅速な請求書の発行と請求及び記帳の合理化の経営内容に反し、被告の債務不履行に当たるといえる。

(三)  車両管理システムについて

前示三3の認定説示及び前記二1の認定事実並びに《証拠略》によれば、甲野作成の車両管理システムにおける「コンピュータ仕様書」は仕様書といえる内容のものではないこと、被告作成の「車両管理基本設計書」は、平成六年七月二九日、開発進捗確認書で原告の承認を受けているものの、完成検査はなされておらず、バッテリー交換、油圧交換等の各管理表には「走行距離」の欄があるが、日々変化する走行距離は入力できず、固定した走行距離が一度入力できるにすぎず、車両の走行距離による管理ができないことが認められる。

よって、本件ソフトの車両管理システムが事業活動の管理に必要な機能を備えているとはいえず、被告の債務不履行に当たるといえる。

四  損害

1  前記認定説示のとおり販売管理システムから財務管理システムへのデータの受渡しの機能がないこと並びに財務管理システムのLAN及び車両管理システムが具備すべき機能を有しないことから、それらのために原告が負担した費用(原告が東芝リースとの本件リース契約により金融を得て実質的に被告に対し支払った製作代金)はいずれも無為に帰したことになり、原告は右費用相当額の損害を被ったと認められるところ、《証拠略》によれば、右費用額は以下のとおりであることが認められる。

(一)  右データの受渡し機能を前提とした財務会計ソフトの改良費用五六方円のうち二分の一相当額 二八万円

(二)  本件システム及びソフト代金のうち、LAN対応のために負担した費用

ネットウエア 四八万円

財務会計ソフト(LAN対応にする前の見積との差額) 二〇万円

給与ソフト(LAN対応にする前の見積との差額) 二五万円

dbMAGIC実行キット 一八万円

合計一一一万円

(三)  車両管理システムのために負担した費用 五〇万円

(四)  (一)ないし(三)の費用に対する消費税(三パーセント) 五万六七〇〇円

2  《証拠略》によれば、原告は被告のその余の前記債務不履行により以下の損害を被ったことが認められる。

(一)  請求顧客明細マスタと顧客基本マスタ・顧客明細マスタが関連づけられていないため、会計学上問題のある本件ソフトを使用したことにより、顧客集計票と請求一覧表を突合するのに要した人件費相当の損害 二七万一四九五円

(二)  作業入力処理において、予め作業コードを一覧表に書き出さなければならないことにより要した人件費相当の損害 二九万〇五五〇円

(三)  消費税の方式が変更できないので、請求顧客明細マスタの入力チェックリストを別に作成しなければならないことにより要した人件費相当の損害 四六万六八八九円

(四)  本件システムによる月次更新処理は時間がかかりすぎ、また計算結果に誤差があるため、売掛金残高集計票及び財務試算表を突合し、売掛元帳一覧表を作成しなければ、月次決算ができないことにより要した人件費相当の損害 一一一万九七八六円

3  原告は、被告の債務不履行による本件ソフトの欠陥によって、右認定を超える人件費等の損害や信用失墜等の無形の損害を被った旨主張するが、前掲証拠によるも認めるに十分でなく、他にもこれを認めるに足る証拠はない。

六  結語

よって、原告の本訴請求は、被告に対し、債務不履行による損害賠償請求金四〇九万五四二〇円及びこれに対する訴状送達日の翌日である平成八年六月二七日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める限度の範囲で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担について民訴法六一、六四条本文を、仮執行の宣言につき同法二五九条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 田中澄夫 裁判官 後藤慶一郎 裁判官 伊吹真理子)

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